WHY?なぜアートが注目されるのか?

昨今、ビジネスの分野においてアートに対する関心が高まっています。「アート思考」「アートシンキング」など、欧米を発信源とする藝術の思考法やメソッドがここ数年で日本でも出回る様になり、書店ではビジネス書のコーナーにアート関連書籍が置かれる様になりました。何故これまでビジネスに無縁とされ、見向きされる事がなかったアートが注目される様になったのでしょうか?この現象には、現在のビジネスシーンの不確実性が高まり、これまでのやり方では対応する事が難しくなっている背景があります。

社会的背景

現在の社会経済環境がきわめて予測困難な状況に直面している、という時代認識を表すVUCA と言う概念がマネジメントの文脈においても使われる様になってすでに久しくなりました。事業経営を取り巻く環境は、変化が早く、かつ条件が複雑である為、往来の論理的思考のみでは課題解決が難しいと言われています。

この様な時代においては非線形的に物事を考えなければならず、従来の論理的思考に加え「柔軟に非合理的で不確実な世界を生きていく力」が求められています。左脳的思考に頼らず、右脳的発想に基づく発想を生み出す創造的分野であるアートにその期待が寄せられています。

市場的背景

2つめは市場的背景です。物質的に豊かになり、商品が飽和している現在の市場において消費者のニーズは機能性で差別化されることは難しくなりました。例えばiphoneは、その機能性に加え、デザイン性の高さに加えスティーブ・ジョブズの思想、デザイン性の美しさや世界観への共感から選んでいる方も多いのではないでしょうか。

これだけ文化が成熟し、人々の嗜好も多様化し、物質的欲求が満たされた現代社会においては、過去のデータや、マーケティングなどに頼った左脳的思考による商品企画では、答えはどれも似たり寄ったりのコモディティ化を避けられません。

ルイ・ヴィトンやエルメスなどトップメゾンに代表される製品は、機能のみではなくむしろブランドとしての価値、つまり意味的価値が差別化の要因となっています。アーティストともコラボレーションを重ね、提供価値に常にアートのエッセンスを取り入れ高い付加価値を誇っています。機能的価値に加え、意味や美しさ、ビジョンに対する共感を伴う独創的な商品やサービスが選ばれる様になるのではないでしょうか?

哲学的背景

3つ目は、新しい時代における人間の役割とは何か?という問いです。テクノロジーの進化が事業環境の変化を加速させる要因である事は疑いのない事実ですが、時として人間の社会における役割にも大きな変化を与えます。近年は人工知能(AI)やIoT、ロボット、ブロックチェーンの技術は私たちの生活やビジネスに大きな影響を及ぼしています。人工知能が人間の能力を凌駕すると言われる2045年に予測される”シンギュラリティ”は実際に起こるでしょうか?実現の有無はさておき、数理処理を得意分野としコストが安く、ミスもなく、24時間労働が可能な人工知能が、現在成立している正に”役に立つ”多くの職種を代替されるとすれば、「人間がすべき仕事とは何か?人間とは何か?」という問いが浮かび上がってきます。

AIには代替不可能な能力を育成することが人間にとって必要であり、「0から1の新しい価値を作り出す力」、「感情に訴える美を生み出す力」といった人間の創造性はAIでは生産できないので、将来において稀少性が高いと考えられます。ことに、藝術的要素を導入することは生き残るための戦略として考えることができるのではないかと思います。

新しい時代に求められる能力

この様な3つの背景を考えると、アートは時代の要請によって関心が高まってきたのかもしれません。

実際、欧米のグローバル企業の幹部候補は研修にアートを取り入れ、これまで経営の現場において戦力となったMBA(経営学修士)の取得から、希少性の高いMFA(美術学修士:Master of Fine Arts)のニーズが高まっているとも言います。リーダーに求められる力が変化してきたという事を表す事例ではないでしょうか。

そう言った意味において、藝術家の活動は、これまでの歴史の中で不確実な世界を生きて来た歴史そのものであり、今後の時代に必要とされる力を学ぶ宝庫と言えるかもしれません。イノベーションを生み出し続けてきたアートの世界には、「創造性・感性・直感・美意識・抽象的思考・個性と多様性」など人間が新しい価値を生み出すクリエイティビティを養うヒントがたくさんあります。